脳血管疾患では急性期より話す・食べる事の障害から構音障害・嚥下障害に気づきやすいと思います。
嚥下障害がなぜ起こるのかを神経機序から調べていくと球麻痺という用語がでてきます。
球麻痺とは口や喉の動きが悪くなることで構音障害や嚥下障害を引き起こすものです。
延髄にある口や舌や喉の脳神経核が障害されることによって生じます。
延髄は外から見るとボールのような丸い形をしているので"球"と呼ばれ延髄の麻痺のことを球麻痺、延髄の脳神経の障害によって生じる症状を球症状と呼びます。
仮性球麻痺は延髄以外の病変で嚥下障害(球症状)を起こす症状のことを指します。
なお、仮性球麻痺は学術的には偽性球麻痺というようです。

嚥下障害は脳血管疾患でよく出現しますが急性期を過ぎても残ってしまう嚥下障害は球麻痺・仮性球麻痺が背景にある場合が多いので考えをまとめてみたいと思います。
球麻痺と仮性球麻痺
脳血管疾患で生じる嚥下障害は球麻痺と仮性球麻痺に分けられる。
球麻痺は延髄の嚥下中枢が障害されて起こる。
仮性球麻痺は嚥下中枢に対する上位運動ニューロンが両側性に障害されて起こる。
とされているため
嚥下障害=球麻痺or仮性球麻痺
となってしまいます。

摂食・嚥下障害①
食事動作を一連の流れとしてまとめてみると
食事の5相として分けて考えることができます。
その中に食事動作として食べ物を口まで持ってくることが必要となります。
何か食べたいなという食欲から食べ物を視覚的に捉えて、手でとりにいって、口まで運び、口の中でもぐもぐと噛み、のどまで送り込んでごっくんと飲み込むというおおまかな流れが円滑に行われないと食事がうまくできません。
摂食・嚥下障害②
摂食・嚥下障害を考える場合、食事動作も含めた一連の動きの中で考えます。
食事の5相のどこが問題か?摂食動作が問題か?など
問題が何であるかを絞り込む必要があります。
摂食・嚥下動作の中で特に嚥下運動(食べこぼす・むせるなど)が問題となっている場合
具体的には準備期・口腔期・咽頭期での運動がうまくいってない場合
球症状の関与を考えていった方が良さそうです。
ここまで問題を絞れると球麻痺と仮性球麻痺と嚥下障害が混乱しなくなると感じました。
嚥下にかかわる脳神経
食事の5相に関わる脳神経を考えていきます。
- 先行期ではお腹が空いた、食べ物があるなど意識や意欲、食べ物を捉える認知機能が必要です
- 準備期ではもぐもぐと食べ物を噛み食塊を形成するので、口からこぼさず、唾液と混ぜながら食塊を形成する運動機能が必要です
- 口腔期では飲み込む準備をするため、奥舌へ食塊を送り込む運動機能が必要です
- 咽頭期ではごっくんと飲み込むため運動機能が必要です
- 食道期では食道から胃まで食物を運ぶ運動機能が必要です
これらの運動を筋収縮によって随意的に反射的に制御している神経の障害を見極めることが必要です。
球麻痺
球麻痺では嚥下反射の消失や輪状咽頭筋の弛緩不全による食道入口部が開かないという要素的な障害が特徴なようです。

仮性(偽性)球麻痺
皮質延髄路は左右両側性に投射しているので、両側性の脳病変により仮性球麻痺が起こるとされています。
ですから2回目のの血管疾患を発症した場合に仮性球麻痺が起こりやすいです。
仮性球麻痺は病変部位によって
- 皮質-皮質下型(随意的な嚥下運動の障害が強く出る)
- 基底核-内包型(筋のこわばりが強く出る)
- 脳幹型(感情失禁・失調)
と分類されそれぞれの特徴も挙げられています。
その他の摂食・嚥下障害
一側性の脳血管疾患でも嚥下障害は出現するが嚥下筋は脳から両側性の神経支配を受けているため経過とともに回復することが多い。
一側性の脳血管疾患での嚥下障害が残存する場合、嚥下筋や口輪筋の左右差など仮性球麻痺タイプの嚥下障害として出現する。
サルコペニアやフレイルなど嚥下筋の筋力低下でも嚥下障害が出現する。
まとめ
- 嚥下障害は食事の5相に分けて考えるとイメージしやすい(球麻痺と区別しやすい)
- 球麻痺・仮性球麻痺の問題は特に準備期・口腔期・咽頭期について考える。
- 準備期・口腔期・咽頭期に関わる脳神経は三叉神経・顔面神経・舌下神経・舌咽神経・迷走神経
- 球麻痺は嚥下反射の消失や食道入口部の閉鎖など咽頭から食道への送り込みが問題となる
- 仮性球麻痺は咀嚼が不十分となり食塊形成が問題、咽頭への送り込みが問題となる
課題
脳神経の走行は複雑で疑核などの神経核も含めた解剖を理解する
Expert Nurse Vol32.No6 5月臨時増刊号 2016 P73-83
脊椎脊髄 Vol27.No11 2014 11月
OTジャーナル Vol55. No8 2021 年増刊号