CPGという言葉は歩行のリハビリを行うにあたりよく聞かれると思います。
歩行のような自動化された運動は常に"歩く"という意識をしなくても可能です。
常に脳からの指令がなくても脊髄の神経回路によって運動出力を生成するメカニズムがあるからです。
CPG:central pattern generator(中枢パターン発生器)という概念は
歩行運動制御の階層性(脳の階層性)という観点から上位中枢の負荷の軽減に役立っています。
高度に自動化された運動は脳の指令を逐一必要とせず、脊髄(脳幹)の神経回路網によって運動制御することができるとされています。
では、どのように自動化されているのか?
メカニズムを考えていきたいと思います。
CPG
歩行制御の階層性を示すモデルを考えていくとCPGの立ち位置がわかります。
運動を計画する上位中枢と筋収縮を起こす脊髄運動ニューロンの間にCPGは位置しています。
歩行の高度な制御は上位中枢が関与しますが、歩行の基本的運動パターンはCPGから脊髄運動ニューロンへ出力されることで歩行時の筋活動が発現しています。
CPGからの運動出力により歩行に関わる多数の筋群の制御が自動的に行われているという訳です。
自動化された歩行はCPGが担っている訳ですが、歩行制御の階層性からCPGと他の中枢神経系との関わりを考えていきます。
- 大脳皮質:障害物のまたぎやすり抜けなどのように視覚情報を処理しながら歩行する場合、考え事をしながら歩く場合などに関与
- 大脳基底核:歩行の開始や筋緊張の調節に関与
- 小脳:運動出力の調整など協調運動に関与
- 脳幹:歩行誘発野など運動出力を引き起こすトリガの役割
歩行制御には様々な神経系が関与しますが、これら全て駆動しながら歩行するには作業コストがかかり過ぎます。
歩行制御においてCPGが基本的にメインに駆動し、状況に応じて他の神経系の制御を受ける事で作業コストの軽減に役立っています。
CPGのモデル
CPGのモデルとしてHalf Center仮説があります。
CPGは複数の脊髄介在ニューロン回路網の相互作用によって、パターン化された歩行運動出力を実現できると考えられています。
Half Center仮説
EHC:extensor half center(伸筋への介在ニューロン群)
FHC:flexor half center(屈筋への介在ニューロン群)
EHCとFHCは相互に抑制性結合を持つ(屈曲-伸展の交互運動を実現)
FHCとFHC同士も相互抑制性の結合を持つ(左右の体肢間の周期的な運動出力を実現)
関節運動に伴う筋紡錘からの求心性入力はFHCに連絡
筋収縮や荷重に応答する力学的受容器であるゴルジ腱器官からの求心性入力はEHCに連絡
CPGは歩行の基本的パターンを脊髄運動ニューロンへ出力します。
基本的運動パターンとは
- 歩行リズムの生成:立脚-遊脚サイクルに応じた荷重情報を検知して立脚期に屈筋群を抑制
- 歩行に参画する筋群の運動パターンを決定:立脚後期の股関節伸展の感覚情報が遊脚期への位相転換を担う股関節屈筋群の活動を喚起
CPGの役割として挙げられる基本的運動パターンの出力には感覚情報(筋紡錘・腱器官)をもとに合目的な歩行運動の調節に関与しています。
まとめ
CPGは基本的運動パターンの出力という役割を担っている。
CPGの役割によって上位中枢の神経系制御負荷を軽減している。
CPGのモデルはHalf Center仮説によって示されている。
CPGの基本的運動パターンの出力とは、歩行リズムの生成と参画する筋群の運動パターンを決定する事である。
CPGによる制御は感覚情報も重要である。
CPGをどう使うか?
脳卒中など上位中枢の障害によって随意運動障害(運動麻痺)がある場合、上位中枢からの運動指令によって筋活動が起こせない状況にある。
このような状況であってもCPGを利用することで筋活動を起こせる可能性がある。
CPGは感覚情報を利用しているので、必要な姿勢アライメントや荷重情報を提供した歩行練習によって運動出力(筋活動)が促通される可能性がある。