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エクステンションラグ(膝伸展不全)について

              

エクステンションラグ(膝伸展不全)は、人工膝関節置換術などの術後にしばしば観察される現象であると思います。しかし、時間とともに自然軽快することも多く、患者さん本人も気づかないまま歩行獲得される場合があります。階段やジャンプなどの動作において膝の動揺を自覚するなどエクステンションラグ(膝伸展不全)による動作への影響は注意深く観察する必要があるようです。

なやみ
エクステンションラグ(膝伸展不全)って、どうして膝関節の完全伸展できないんだろう?
膝屈曲中間位なら徒手抵抗にも耐えられる。膝伸展筋力はありそうなのに完全伸展位までは動かせない現象、不思議ですよね。
たもつ

今回は、エクステンションラグについて考えをまとめていきたいと思います。前提として、膝関節の術後や股関節疾患の術後に合併して観察される場合を対象として考えています。

エクステンションラグ(膝伸展不全)とは

エクステンションラグ(extension lag)(膝伸展不全)とは、①他動運動では膝の伸展制限がない。②膝の屈曲中間位であれば徒手抵抗を受けられる。(中間可動域では比較的筋力は保たれている)③なのに膝の完全伸展ができない状態(膝の自動可動域が他動可動域まで至らない)を指します。

extension lag(膝伸展不全)現象を呈する患者さんの多くは膝の屈曲可動域制限がある、パテラセッティングが苦手なことが多いと感じています。
たもつ

エクステンションラグ(膝伸展不全)の起こりうる機序

エクステンションラグは、主要な膝伸展筋である大腿四頭筋の機能不全による影響がつよいと考えることができます。

大腿四頭筋の機能不全を引き起こす可能性を以下の3つの観点から考えていきます。

反射抑制

腫脹のある関節においては、筋収縮を抑制する神経生理学的作用がある。

なぜなら、腫脹によって関節内圧が上昇します。すると関節構成体である靭帯や関節包に存在する機械受容器が伸張され固有感覚にかかわる反射抑制によって筋収縮を抑制するという事です。この反射は伸張された筋を過伸張から保護する役割があると考えられています。

固有感覚の低下

多くの患者さんは膝関節伸展位でのパテラセッティングが苦手です。膝伸展位で大腿四頭筋の筋収縮を行わせると「どこに力を入れて良いかわからない」など困難を訴えます。こういった訴えは筋感覚の低下の問題を疑います。(関節包や筋紡錘など、深部感覚を担う固有受容器の感度の問題)

筋感覚は、関節包の受容器・筋紡錘・皮膚の機械受容器が関与するとされている

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マルアライメントによる膝関節屈曲に作用する筋の過活動

けがや手術後は骨や筋の損傷によって生じる痛みを避けるため、患者さんは下肢の位置を疼痛逃避肢位へ持っていくことが多いと思われます。

患者さんのベットでの姿勢をみてみますと、この肢位は股関節屈曲・内旋位、膝関節屈曲位に長時間おかれていること感じます。

痛みの刺激から手足を引っ込める脊髄反射に屈曲反射があります。この反射は痛み刺激反射で疼痛逃避を目的とした反射と考えられており、反射的にも下肢の屈曲位を助長しているのかも知れません。

下肢を屈曲位にするということは膝関節においてもルーズパックポジションとなり、関節が緩むことで腫れに対するスペースが確保され、膝の関節内圧上昇を避けるというメリットもあります。無意識のうちに脚を曲げるという行為をしていると考えています。
たもつ

こうした膝屈曲肢位の持続は膝の伸展筋は低緊張に、屈曲筋は過緊張に陥りやすく膝伸展運動の際に膝屈曲作用を持つハムストリングスや縫工筋・大腿筋膜張筋の過活動によって制限されやすくなります。

大腿四頭筋の機能不全

内反膝によるマルアライメントや終末強制外旋運動(screw home movement)の欠如などが大腿四頭筋の機能不全を引き起こし、エクステンションラグ(膝伸展不全)につながる。

❶大腿四頭筋への反射抑制や❷固有感覚の低下など、大腿四頭筋の機能不全を引き起こすことに加えて、❸下肢のマルアライメントが大腿四頭筋の収縮効率・力伝達に影響を及ぼし、結果的に大腿四頭筋の機能不全につながることが考えられます。

私はこういった下腿の可動性が低下している膝の多くは変形という問題を抱えており、いわゆる変形性膝関節症を既往に持つ患者さんはエクステンションラグ(膝伸展不全)の機序をより複雑にさせていると捉えています。

 

エクステンションラグの治療

大腿四頭筋の機能不全を改善させるよう、1.反射抑制の機序に対して2.固有感覚の低下に対して3.膝屈曲筋の過活動に着目した治療を考えてみます。

1.腫脹・痛みを取り除く

CRPなど検査値を確認したり、周径を測ったりと炎症の程度を把握しアイシングなど物理療法を併用する。

2.膝伸展の収縮感覚がつかめるよう工夫する

大腿四頭筋の固有受容器がしっかり機能するよう、膝関節の可動域を改善させる。

膝伸展位でのセッティングは持続させることが困難、良い収縮ができたときはフィードバックして繰り返す。

免荷や部分荷重に注意しながらCKCエクササイズを行い股関節や足関節も動員した膝伸展機構としての相互感覚をつかみ下肢全体の安定につなげる。

3.下肢の筋緊張のバランスを整える

膝伸展運動を阻害する筋の過活動が生じていないか確認する、ポジショニングなど良肢位を保持し過緊張を抑制させるよう働きかける。

4.むやみに筋トレは避ける

膝関節屈曲可動域が確保されていない状態とは膝関節伸展筋の筋の伸張性が十分ではないという考え方。(筋が短縮している状態)

膝関節伸展筋(大腿四頭筋)の筋が短縮している状態では固有受容器である筋紡錘も短縮しており深部感覚の低下を引き起こす。

筋紡錘が短縮してしまっていれば、筋感覚のセンサーが正常に働かないという事。したがって、筋張力のコントロールも失ってしまうという考え方
たもつ

筋収縮が抑制されているという機序からすると筋収縮を強制させるトレーニングよりも、まずは筋張力をコントロールしやすいコンディションをつくってあげるべき、筋トレよりも可動域を確保してセンサーをしっかり機能させて筋張力をコントロールしやすいようにコンディショニングしていく。

まとめ

  • 反射抑制を解除するために腫脹を軽減させる。
  • 筋感覚がつかみやすいようCKCエクササイズでアライメントも確認。
  • 関節可動域を確保する。
  • 参考可動域とは各関節がどれだけ動かせるか?として標準可動域の参考としています。一方で、関節を正常に動すためには、関節に付着している筋の長さが十分でなければ可動域は制限されます。今回は、関節が十分に動かせるだけの筋の長さか確保されているか?という視点から参考可動域を捉えています。
  • 筋内の固有受容器である筋紡錘が、深部感覚のセンサーとして正常に働くために必要な筋の長さは確保されているか?としての指標を参考可動域を用いて考えています。
通過症候群のように多くは自然軽快する場合が多いので、術後の肢位や動きなど注意深く観察するようにしましょう。膝関節伸展筋力低下として筋力強化することよりも筋力を発揮しやすいように膝関節のコンディショニングを行う方が、膝伸展機構の改善は早いと思われます。
たもつ

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