体に痛いところがあると無意識のうちに撫でたりさすったりしていますね、これは皮膚をさすることで”痛い”という感覚に”さする”という感覚を上書きすることで痛いという感覚をごまかしているようです。
痛みのある領域に触圧覚刺激や深部知覚刺激を加えると痛みが軽減する場合があります。
これは速伝導系が遅伝導系を抑制するという機序がはたらいているからだそうです。
”痛み”や”さする”として感じるまでの神経の伝導系(流れ)は
体の感覚受容器の興奮により感覚信号を神経が脳まで伝達します。
手足など体からの感覚情報は脊髄へ向かって流れていきます。
脊髄から脳へ向かって上行し脳で痛みとして知覚します。
”痛み”や”さする”という体からの感覚はいったん脊髄を通過するという共通の神経の伝導系によって感覚信号を重ねることができるのです。

今回は皮膚をさすると痛みが和らぐ現象についてゲートコントロール理論を通して考えていきたいと思います。
本記事でわかること
- 痛みのメカニズムについて
- ゲートコントロール理論について
目次
皮膚をさすると痛みが和らぐ?【ゲートコントロール理論とは】
痛みの伝達は後根神経節→脊髄後核→視床を介し対側の一次感覚野に達し痛みとして自覚します。
この痛みは脊髄の興奮性神経細胞と抑制性神経細胞や触覚と痛覚の神経細胞の活動バランスによって修飾されています。
痛みの緩和や増強についてゲートコントロール理論を用いて説明される事が多いです。
ゲートコントロール理論は脊髄後根から触覚と痛覚が入力され脊髄後角内で痛覚の伝達を触覚がSG細胞を介して抑制し、脊髄後角から上位投射するT細胞の興奮をコントロールしているという説明です。それによって、一般的に皮膚をさすると痛みが和らぐ機序となっています。
速伝導系が遅伝導系を抑制
体からの感覚刺激を伝える神経のつながりを伝導路と言います。
感覚刺激を伝える神経には、”痛み”を伝える細い神経線維と”さする”などの触覚を伝える太い神経線維があります。
太さの違う神経線維によって神経の伝達速度は変わり、細い神経線維<太い神経線維の方が速く伝達されます。
体からの感覚を伝える伝導系は脊髄という共通の門(ゲート)を通ります。
速く伝達される”さする”などの触覚刺激が、伝達速度の遅い”痛み”刺激が脊髄に到達する前に脊髄の門を閉ざしてしまう事によって痛み刺激の伝達を抑制します。
さすった刺激が痛み刺激よりも早く脊髄に到達し脊髄の痛み刺激が通る門を閉ざしてしまう事で優先的にさすった刺激が脳に伝達されます。
脳で痛みとして伝達されていた痛み刺激がさする触刺激に上書きされて脳に伝わるようになる為痛みが和らぐと考えられています。
痛みのメカニズム
国際疼痛学会の痛みの定義は
実際に何らかの組織損傷が起こった時、あるいは組織損傷が起こりそうな時、あるいはそのような損傷の際に表現されるような、不快な感覚体験および情動体験
と定義しています。
痛みには感情的な要素と感覚的な要素があります。
これは組織損傷などにおける痛みは侵害刺激が脳に伝わった時に個人にもたらされる主観的な感覚であり情動であり、傷の大きさでは一概に表せないという事です。
痛みの伝導路(脊髄視床路)
皮膚には、自由神経終末があり機械受容器として機能している。自由神経終末には、無髄神経線維(C線維)と細い有髄神経線維(Aδ繊維)があり、痛覚・温度覚受容器として機能している。(多くの種類の刺激に反応する無髄神経もあり、その自由神経終末を多反応性受容器という)
自由神経終末より受容された痛覚刺激は、C線維やAδ繊維によって脊髄後根神経節、脊髄後角より反対側の脊髄視床路を上行し、視床を介し大脳の体性感覚野で痛みとして知覚される。
ゲートコントロール理論
Melzack R, Wall PD:Pain mechanisms:a new theory.Science 150:971-979,1965 より
「ゲートコントロール理論の模式図」
ゲートコントロール理論は脊髄後角に痛み刺激の神経伝達をコントロールする役割をもったゲートがあるという事を示した理論。
教科書ではこの図がよく用いられると思います。ここまで解説してきた内容を模式図に当てはめて解説していきます。
INPUT LとSについて
L(large-diameter fibers) L線維:太い神経線維(Aα、Aβ) RexedのⅣ板
S(small-diameter fibers) S線維:細い神経線維(Aδ、C線維)
SGについて
SG(substantia gelatinosa)膠様質:脊髄後角の膠様質ニューロン RexedのⅡ板及びⅢ板
Tについて
T(transmission cell) T細胞:脊髄後角の一次伝達細胞
もっと詳しく
この図では脊髄後角へ末梢からの求心性侵害受容線維が、抑制性介在ニューロンを刺激し、抑制性介在ニューロンが痛覚の関門制御をするという事を示している。
Aα求心線維は後角のⅣ板の抑制性介在ニューロンとT細胞を刺激。
Ⅳ板の抑制性介在ニューロンへの刺激はⅡ板の脊髄後角膠様質ニューロン(SG)を興奮させるよう入力される。
SGは、L線維とS線維の終末にシナプス前抑制をかけ求心性線維を抑制。
Aδ、C線維の刺激が脊髄視床路に伝達されるのを制御している。
central control:中枢性制御
ゲートコントロール理論は、末梢からの痛覚刺激を脊髄で制御するだけでなく上位中枢からの制御も参加するとしています。
太い繊維からの求心情報は、脊髄後索を上行して上位中枢(大脳)に伝達され、情動・記憶・状況などの感覚的側面によっても痛みは修飾されるとしている。
ゲートコントロール理論の要約とTENSへの応用
- ゲートコントロール理論は、単に触刺激によって痛みが抑えられるメカニズムを説明したものではなく。また、ゲートの模式図も単に脊髄だけで説明できるものでも無いようです。
- 痛みの伝導系は、皮膚の受容器など末梢における痛みの受容と脊髄から上行し大脳における痛みの知覚がある。単に痛みという感覚だけでなく情動的側面によっても痛みの程度は影響されるという概念。
- TENS(経皮的電気刺激)もこの機序を利用しており、末梢から脊髄後根への刺激によって痛みをコントロールすることを目的としています。