歩くことを可能にしている神経メカニズムを考えていきたいと思います。
脳の発達段階に合わせて3つのプロセスが示されています。
- 自動的プロセス
- 随意的プロセス
- 情動的プロセス
これら3つの側面から歩行制御を考えていくことがトレンドとなっているようです。
今回は歩行を実現するために働いている神経システムをまとめていきたいと思います。
歩行の制御系
歩行制御の基本的な枠組みとして3つのプロセスが示されています。
- 意識に昇らない自動的運動パターンや筋緊張調節は脳幹と脊髄が関与しています。(自動的プロセス)
- 歩行の開始や障害物の回避など注意を要する運動は大脳皮質が関与しています。(随意的プロセス)
- 逃避行動や摂食行動などヒトが外界から身を守り、生き延びるために必要な運動は辺縁系や視床下部が関与しています。(情動的プロセス)
また、大脳基底核や小脳はこれら3つのプロセスの調整に関与し、適切な・正確な歩行を可能にしています。
自動的プロセス
歩行の際、リズミカルな手足の運動や屈曲伸展などの運動パターンを生成する神経機構があります。
歩行誘発野という領域が3つ同定されています。
- 中脳歩行誘発野(Midbrain locomotor region;MLR)
- 視床下部歩行誘発野(Subthalamic locomotor region;SLR)
- 小脳歩行誘発野(Cerebellar locomotor region;CLR)
中脳歩行誘発野は楔状核に存在し、脳幹・脊髄のリズム生成系と筋緊張促通系を活動させて歩行を誘発する。
視床下部歩行誘発野は外側視床下部に存在し、情動行動(摂食行動)の発現に関与する。
小脳歩行誘発野は小脳白質の中央に存在し、歩行リズム生成系に関与すると考えられている。(視床下部歩行誘発野もリズム生成に作用)
自動的プロセス(脳幹)
歩行の筋緊張調節系は筋緊張促通系と筋緊張抑制系によって調節されています。
筋緊張抑制系は脚橋被蓋核(Pedunculopontine tegmental nucleus;PPN)に存在し、筋緊張を減少させたり歩行リズムも抑制する。
筋緊張抑制系はまた、レム睡眠時の筋緊張消失にも関与するとされています。
自動的プロセス(脊髄)
脊髄には歩行リズムを生成するCPG(中枢パターン発生器)が存在します。
CPGで生成されるリズムをもとに骨格筋からのⅠ群・Ⅱ群求心情報が脊髄内神経回路によってパターンを生成します。
- 歩行リズムは左右肢の立脚ー遊脚
- 歩行パターンは立脚ー遊脚肢の屈伸運動(股関節屈曲伸展など)
歩行リズムやパターンを生成する脊髄内介在細胞群は灰白質のRexedⅤ-Ⅶ層に存在する
左右肢の交互運動に関与するのはRexedⅧ層の交連性介在細胞とされている
脊髄内の神経回路の活動は、大脳皮質や脳幹からの下行性信号や抹消からの感覚情報により調節される
随意的プロセス
歩行時の障害物またぎやすり抜け運動は意識した運動となります。
自身の身体図式や視覚情報を処理して歩くことは大脳皮質の関与が必要です。
考え事をしながら歩く時は認知機能が必要であり、中枢神経の情報処理に負荷がかかります。
運動野や高次運動野でプログラムされた運動情報は、内側運動制御系と外側運動制御系に分けて考えることで姿勢制御と運動制御を捉えることができます。
情動的プロセス
情動行動には大脳皮質と大脳辺縁系・視床下部により生成される認知・情動情報の2つがあります。
まとめ
歩行制御を脳の階層性制御と関連させて考えました。
歩行誘発野とCPGの関連について考えました。
歩行パターンの生成には歩行リズムと筋緊張制御系が関与していました。